執筆者
弁護士法人Legal Home
代表弁護士 藤原 武士
経歴
- 愛知県豊橋市出身
- 東北大学法学部卒業
- 2010年8月司法修習終了(63期)
- 2010年9月他事務所で勤務
- 2017年10月藤原武士法律事務所 開設
- 2020年8月法人化し、弁護士法人藤原武士法律事務所へ。豊中オフィス開設
- 弁護士法人Legal Homeへ名称変更
亡くなった方に借金があるものの、預貯金や不動産も残されており、どちらが多いのか分からないことがあります。
このような場合に、相続した財産の範囲で借金を支払う方法があります。これを「限定承認」といいます。
たとえば、亡くなった父親に次の財産と借金があったとします。
土地が高く売れれば、借金を支払った後に財産が残るかもしれません。一方、土地の価値が低ければ、借金の方が多くなる可能性があります。
限定承認を選ぶと、原則として相続した財産を超える部分まで、ご自身のお金から支払う必要はありません。財産と借金の全体が分からないときに、検討できる方法です。
相続が始まったときは、財産と借金をどのように扱うかを選びます。
| 選択肢 | 内容 | 検討するケース |
|---|---|---|
| 「単純承認」 すべて引き継ぐ |
財産と借金の両方を引き継ぎます | 財産が借金を上回る場合 |
| 「相続放棄」 財産も借金も引き継がない |
財産も借金も引き継ぎません | 借金が多い場合 |
| 「限定承認」 財産の範囲で借金を支払う |
受け継いだ財産を限度に借金を支払います | 財産と借金のどちらが多いか分からない場合 |
※表は左右にスクロールして確認することができます。
限定承認は、この2つの中間にあたるような方法です。ただし、手続きが複雑で、相続人全員の協力も必要になるため、誰にでも利用しやすい制度とは限りません。
限定承認は、特に次のような場合に検討されます。
たとえば、亡くなった方が会社を経営していた場合、事業用の不動産や売掛金がある一方で、金融機関からの借入れや取引先への未払いが残っていることがあります。
帳簿や契約書を確認しても全体がすぐに分からない場合は、相続放棄だけでなく、限定承認も含めて検討します。
相続放棄をすると、預貯金や不動産などの財産も、借金も引き継ぎません。
一方、限定承認では、相続した財産を使って借金を支払います。その後に財産が残れば、相続人が受け取れる可能性があります。
たとえば、財産が1,500万円、借金が1,000万円だった場合、手続きに必要な費用などを除き、残った財産を受け取れる可能性があります。
反対に、財産が500万円、借金が1,000万円だった場合は、相続財産の範囲で支払いを行います。原則として、残る500万円までご自身の財産から負担する必要はありません。
ただし、限定承認をしたからといって、希望する財産をそのまま必ず残せるわけではありません。借金を支払うために、不動産などの売却が必要になることもあります。
限定承認は、相続人の一人だけで選ぶことはできません。相続放棄をしていない相続人全員が、共同で家庭裁判所へ申し立てる必要があります。
たとえば、母親と子ども2人が相続人の場合、3人全員で限定承認を申し立てます。
長男は限定承認を希望していても、母親や次男が財産と借金をすべて引き継ぐことを希望している場合は、そのまま限定承認を進めることはできません。
相続人の中に連絡が取れない方がいる場合や、考えがまとまらない場合は、期限内の申立てが難しくなることがあります。早い段階で相続人を確認し、意向を聞くことが大切です。
限定承認は、原則として、自分が相続人になったことを知った日から3か月以内に家庭裁判所へ申し立てます。
この3か月は、相続するか、放棄するかを考える期間です。法律上は「熟慮期間」と呼ばれています。
期間内に限定承認や相続放棄をせず、延長の手続きも行わなかった場合は、財産と借金の両方を引き継いだものとして扱われる可能性があります。
財産や借金の調査に時間がかかり、3か月以内に判断できないこともあります。
その場合は、家庭裁判所へ申し立て、考える期間を延ばしてもらえる可能性があります。
ただし、期間の延長は自動的に行われません。原則として、3か月の期限が過ぎる前に申し立てる必要があります。
借金の調査が終わっていない場合や、ほかの相続人と連絡が取れない場合は、期限を確認した上で早めに対応しましょう。
限定承認を検討するときは、亡くなった方の財産と借金をできる限り調べます。
郵便物や通帳の引き落とし履歴から、借入先が見つかることもあります。
ただし、連帯保証や個人間の借入れなど、手元の資料だけでは分からないものもあります。分からない借金があることを前提に、どの方法が合うかを考える必要があります。
限定承認は、申立てが認められたら終わりではありません。
その後、亡くなった方の財産と借金を整理し、お金を請求する権利がある方へ支払いを行います。この請求権を持つ方を「債権者」といいます。
おおまかな手続きは次のとおりです。
誰が相続人になるのかを確認し、預貯金や不動産などの財産と、借入金や未払い金などの借金をできる限り把握します。全体像をつかむことが、その後の判断の基礎になります。
限定承認は相続人全員で行う必要があるため、全員の意向を確認し、手続きを進めるかどうかを話し合います。合意が得られたら、原則として相続開始を知ってから3か月以内に家庭裁判所へ申立てを行います。
申立て後は、相続財産の一覧を作成して裁判所へ提出し、債権者へ限定承認をしたことを知らせます。必要に応じて財産を売却し、法律で定められた方法に従って借金を支払います。
すべての借金を支払った後に財産が残った場合、その残りを相続人が受け取ります。限定承認により、相続した財産を超える負担は原則として生じません。
相続人が複数いる場合は、相続財産の管理や支払いを中心になって進める人が選ばれます。
債権者への案内や財産の売却には細かな決まりがあるため、相続放棄よりも時間と手間がかかりやすい手続きです。
借金はあるものの、長く暮らしてきた自宅や家業に必要な土地を残したいことがあります。
限定承認には、一定の手続きを行い、相続人が自宅などを取得できる可能性があります。
たとえば、母親が亡くなり、自宅と借金が残っていた場合を考えてみましょう。子どもが自宅を残したいと希望していても、借金を支払うために自宅の処分が必要になることがあります。
このとき、相続人が自宅の価値に見合うお金を用意できれば、自宅を取得できる可能性があります。
ただし、不動産の価値は相続人が自由に決められるわけではありません。また、取得に必要なお金を準備できなければ、売却が必要になることもあります。
自宅を必ず残せる制度ではないため、不動産の評価や資金の準備まで含めて検討しましょう。
限定承認では、家庭裁判所への申立てだけでなく、財産の管理、債権者への案内、借金の支払いなどを行います。
進め方を誤ると、債権者との問題が生じたり、限定承認による保護を受けられなくなったりする可能性があります。
相続人が多い場合や、遠方に住む方がいる場合は、全員の意思を確認するだけでも時間がかかります。
一人でも単純に相続することを希望していると、限定承認を選べないことがあります。
限定承認では、不動産や株式などを亡くなった方から相続人へ時価で譲渡したものとして、所得税が計算される場合があります。
実際に外部へ売却していなくても税金が生じる可能性があるため、財産に不動産や値上がりした株式が含まれる場合は、税理士への確認も必要です。
また、限定承認をした財産から家賃収入などが生じた場合、その収入は相続人の所得として扱われます。
不動産の評価、財産の売却、債権者への支払いなどに費用がかかることがあります。
財産が少ない場合は、手続きにかかる費用や負担を考えると、相続放棄の方が合っていることもあります。
限定承認や相続放棄を検討しているときは、亡くなった方の財産を使ったり、売却したりしないよう注意が必要です。
たとえば、次のような行為は慎重に判断する必要があります。
財産を処分したことで、財産と借金をすべて引き継ぐ意思があったと判断される場合があります。
葬儀費用の支払いなど、直ちに問題になるとは限らない行為もありますが、事情によって判断が変わります。限定承認を考えている方は、財産へ手を付ける前にご相談ください。
限定承認は、借金の額が分からない場合に役立つ可能性がある一方、相続人全員の協力が必要で、申立て後の手続きも複雑です。
借金が財産を明らかに上回る場合は、相続放棄の方が負担を抑えられることがあります。反対に、財産の方が多いと確認できる場合は、通常どおり相続する方法も考えられます。
限定承認という言葉だけで方法を決めず、次の点を確認することが大切です。
亡くなった方の借金がどれくらいあるのか分からず、自宅や事業用の財産を残せる可能性もある場合は、相続放棄を急いで決める前に、財産と借金の状況を整理することが大切です。
弁護士法人Legal Homeでは、初回60分の無料相談で、手元にある通帳、請求書、固定資産税の通知書などを確認しながら、限定承認、相続放棄、通常の相続のうち、どの方法を検討できるか整理します。
限定承認を選ぶ場合は、相続人全員の意思確認や家庭裁判所への申立て、その後の債権者への対応まで見通して進める必要があります。税金や不動産の評価が関係するときは、税理士や不動産鑑定士などとも連携します。
借金の全体が分からない方や、3か月の期限が近づいている方、残したい不動産がある方は、財産を処分したり借金を支払ったりする前にご相談くだい。




