執筆者
弁護士法人Legal Home
代表弁護士 藤原 武士
経歴
- 愛知県豊橋市出身
- 東北大学法学部卒業
- 2010年8月司法修習終了(63期)
- 2010年9月他事務所で勤務
- 2017年10月藤原武士法律事務所 開設
- 2020年8月法人化し、弁護士法人藤原武士法律事務所へ。豊中オフィス開設
- 弁護士法人Legal Homeへ名称変更
「最近、物忘れが増えてきた」「親が一人でお金を管理できるか心配」と感じても、相続の話を切り出しにくい方は少なくありません。
しかし、認知症が進み、ご本人が契約の内容や財産の分け方を理解できなくなると、希望していた準備ができない場合があります。
たとえば、子どもが代わりに考えたとしても、ご本人の意思を確認できなければ、遺言書の作成や不動産の売却を自由に進めることはできません。
認知症への備えは、財産を家族へ渡すためだけのものではありません。ご本人が今後どのように暮らしたいか、財産を誰に管理してもらいたいかを決めておくための準備でもあります。
すべてを一度に決める必要はありません。まずは、財産と家族関係を書き出すことから始めましょう。
認知症と診断されたことだけで、遺言書や契約がすべて無効になるわけではありません。
大切なのは、手続きを行った時点で、ご本人が内容とその結果を理解できていたかどうかです。
たとえば、自宅を長男に残すという遺言書を作る場合は、次のような点を理解できることが必要です。
物忘れがあっても、会話の内容を理解し、自分の考えを伝えられる方はいます。
一方で、認知症が進んでから作成すると、亡くなった後に「本人は内容を理解していなかったのではないか」と家族間で争いになることがあります。
ご本人の希望を落ち着いて確認できるうちに、準備を始めることが大切です。
亡くなった後、財産を誰へ引き継いでもらうかを書面で残すものが「遺言書」です。
たとえば、次のような希望を記載できます。
ただし、ご本人に代わって、子どもや成年後見人が遺言書を作ることはできません。遺言書は、ご本人が自分の意思で作成する必要があります。
公証人がご本人の希望を確認し、決められた方法に沿って作成する遺言書を「公正証書遺言」といいます。
自分で全文を書く必要がなく、原本が公証役場で保管されます。
認知機能の低下が心配な場合は、作成時のやり取りが記録として残りやすい公正証書遺言を検討する方法があります。
ただし、公正証書で作成すれば、後から争われる可能性が完全になくなるわけではありません。家族関係や財産の分け方も含め、内容を慎重に考える必要があります。
将来、ご自身で預貯金や契約を管理することが難しくなった場合に備え、あらかじめ支援してもらう人を決めておく方法があります。
この仕組みを「任意後見制度」といいます。
任意後見制度では、判断する力が十分にあるうちに、誰へ何を任せるかを公正証書による契約で決めます。
たとえば、一人暮らしの母親が、将来の財産管理を長女に任せたいと考えている場合があります。
母親の判断する力が十分なうちに任意後見契約を結んでおけば、将来、判断する力が低下したときに、決めておいた範囲で長女が支援できます。
任意後見人の仕事は、家庭裁判所が「任意後見監督人」を選んだ後に始まります。任意後見監督人とは、任意後見人の仕事が適切に行われているかを確認する人です。
ご本人が契約の内容を十分に理解できず、財産管理や介護サービスの契約が難しくなっている場合は、家庭裁判所に支援する人を選んでもらう方法があります。
これを「法定後見制度」といいます。
法定後見制度には、ご本人の状態に応じて、後見、保佐、補助という3つの区分があります。
| ご本人の状態の目安 | 利用する制度 |
|---|---|
| 一人で判断することがほとんど難しい | 後見 |
| 一人で判断することが著しく難しい | 保佐 |
| 一人で判断することに不安がある | 補助 |
家庭裁判所は、医師の診断書やご本人の状況などを確認し、どの制度が合うかを判断します。
支援する人は「成年後見人」などと呼ばれます。家庭裁判所が、親族や弁護士、司法書士、社会福祉士などから選びます。
家族が候補者になっていても、必ずその家族が選ばれるとは限りません。
成年後見人は、ご本人の財産を守り、生活に必要な契約や支払いを支援します。
たとえば、認知症になった父親の施設費用を支払うため、父親名義の預金を管理する必要がある場合に利用を検討します。
成年後見制度は、ご本人の財産や生活を守るための制度です。家族が相続しやすいように、自由に財産を移すための制度ではありません。
成年後見人になった家族であっても、ご本人の財産を自分やほかの家族のために使うことはできません。
たとえば、相続税を減らす目的で子どもへ多額の贈与をしたり、家族の住宅購入費を支払ったりすることは、原則として認められません。
財産は、ご本人の生活や介護のために管理します。
成年後見制度は、「不動産を売却できたので終了する」といった使い方をする制度ではありません。
原則として、ご本人が亡くなるか、判断する力が回復するまで続きます。
申立てをした後は、家庭裁判所の許可なく自由に取り下げることもできません。
弁護士や司法書士などが成年後見人に選ばれた場合は、ご本人の財産から報酬が支払われることがあります。
また、成年後見人を監督する人が選ばれた場合は、その報酬が必要になることもあります。
制度を利用する前に、必要性や今後の管理方法を確認することが大切です。
認知症になった親の施設費用を準備するため、実家を売却したいと考えることがあります。
しかし、ご本人が売却の内容を理解できない場合、子どもが家族というだけで代わりに売却することはできません。
また、実家がご本人の生活の中心となっていた住まいである場合、成年後見人が売却するときに家庭裁判所の許可が必要になることがあります。
たとえば、次のような事情を確認します。
施設への入居が決まったからといって、直ちに家族だけの判断で売却できるわけではありません。
金融機関が、口座の名義人に判断する力がないと判断した場合、家族による払戻しや手続きが難しくなることがあります。
通帳やキャッシュカードを家族が預かっていても、自由に使ってよいわけではありません。
たとえば、父親の介護費用を支払うために、長男が父親名義の預金を引き出し続けると、後からほかの家族に使い道を疑われることがあります。
ご本人のために支出した場合でも、領収書や振込記録を残しておくことが大切です。
認知機能の低下が見られたら、次の点を早めに確認しましょう。
元気なうちに子どもや孫へ財産を渡すことを「生前贈与」といいます。
生前贈与をすると、財産を渡した時点で、その財産は受け取った方のものになります。
たとえば、長男へ自宅を贈与した後に、親子関係が変わったとしても、簡単に取り戻せるとは限りません。
また、不動産を贈与すると、贈与税のほか、登記にかかる税金や費用が生じることがあります。
「認知症になる前に名義だけ変えておこう」と急いで決めるのではなく、次の点を確認しましょう。
ご本人の生活を守ることを優先し、弁護士や税理士などへ相談した上で検討することが大切です。
元気なうちに、ご本人の財産を信頼できる家族へ託し、決めた目的に沿って管理してもらう方法があります。
この仕組みは、一般に「家族信託」と呼ばれています。
たとえば、父親が自宅や賃貸物件の管理を長男へ任せ、家賃収入は父親の生活費や介護費用に使うよう決めるケースがあります。
家族信託は、財産管理の方法を比較的柔軟に決められることがあります。
一方で、すべての財産や生活上の手続きを任せられるわけではありません。介護施設への入居契約や身の回りの支援には、任意後見制度などを組み合わせる場合もあります。
信託、成年後見、遺言書は、それぞれ役割が異なります。ご家族や財産の状況に合わせて選ぶ必要があります。
認知症や相続の話をすると、ご本人が「財産を取られるのではないか」と不安に感じることがあります。
いきなり財産の分け方を聞くのではなく、今後の暮らしについて話すところから始めましょう。
一度の話し合いですべてを決めようとすると、ご本人もご家族も負担を感じます。
「通帳の保管場所を確認する」「自宅についての希望を聞く」など、少しずつ進めることが大切です。
最初からすべての書類をそろえる必要はありません。手元にある資料を確認し、分からないものを少しずつ調べていきます。
| 家族関係に関するもの |
|
|---|---|
| 財産に関するもの |
|
| ご本人の希望に関するもの |
|
資料がそろっていなくても、
分かる範囲のメモがあれば相談を始められます。
認知症への備えには、遺言書、任意後見制度、成年後見制度、家族信託など、複数の選択肢があります。
どの方法が合うかは、ご本人の現在の状態、財産の内容、家族関係、今後の暮らしによって異なります。
また、ご本人の判断する力が低下すると、利用できる方法が限られることがあります。
弁護士法人Legal Homeでは、豊中を拠点に大阪府全域から、認知症と相続準備に関するご相談を初回相談60分無料にて受けています。
「親に物忘れが増えてきた」「実家を将来どうすればよいか分からない」「遺言書を作れる状態か気になる」といった段階でもご相談いただけます。
ご本人の希望と今後の暮らしを大切にしながら、どのような準備が必要かを整理します。登記や税金が関係する場合は、司法書士や税理士などと連携して対応します。
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